2013年05月29日

天の浮橋(6)

(しばらく休みましたが、再び続けます。)
脳波で観測されるということは、これは脳の働きです。私たちは、それを心の働きと捉えています。有田教授は、「心は、どこにあるのでしょう。心は大脳辺縁系と大脳の前頭前野にあります。脳の研究者である私としては、そうこたえるしかありません。大脳辺縁系には原始的な感情を司る中枢があります。また、人間には原始的な感情をコントロールして高度な幸福を得る機能があります。それを司るのが前頭前野です」(『「セロトニン脳」健康法』)と説明しています。心は脳にあるので、心の動きが脳波に表れるのです。

心の働きは知・情・意に分けられますが、脳波に深い関わりがあるのは情(感情)で、「心の基本は感情です。『つらい』『苦しい』あるいは『楽しい』『幸福だ』−。私たちは毎日そういう心の動きにそって暮らしています」(同)と言われるとおりです。ただ、私たちの認識としては、情を司っている心は腹にあって、「腹が立つ」「腹の底から笑う」などという言葉になっていると思います。英語の場合の情を表す言葉は“heart”なので、英語圏の人が“heart”と言う時には胸を考えているのではないかと思いますが、この心(感情)をコントロールするときには、腹(臍又は臍下丹田)を意識することになると思います。

このような予備知識を持って「天の浮橋に立つ」という状態に至る鍛錬法を思い巡らすと、「三つの鍛錬」(『合気神髄』p.177)の「心の鍛錬」と「気の鍛錬」がそれではないかと思います。道文・道話の中に「天の浮橋」が数多く出ていることに触れましたが、開祖は、天の浮橋に立つ心と気の鍛錬法についても繰り返し説明されているはずです。
もちろん、「天ノ浮橋とは火と水(身、体)の交流である」という言葉から、体の鍛錬法もあると思います。
「天ノ浮橋とは火と水の交流である。即ち造化の三神であると同時に、那岐那美二尊のみ心の現れである。・・・これが武産合気武技の道であります。そこで空気と魂(たま)の緒の緒結びによって来たるところの念力の大橋(火と水のむすび、十字にして天の浮橋)によって全大宇宙の真の妙精とむすび合うて、わが身心にくいこみ、くいとめて、人のつとめを果すのです。・・・それで天の呼吸、地の呼吸(潮の干満)を腹中に胎蔵する」(『武産合氣』p.134)と開祖が話されているのは気の鍛錬です。それは「天の呼吸、地の呼吸を腹中に胎蔵する」ことから始まります。
「武産合気の武技」は、次の道歌から「気のみわざ」であることが分かります(気のみわざ=武産の道)。
気のみわざ おろちの霊出(ひで)や蜂の霊出 魂(たま)の霊出ふる武産の道
この「武産合気の武技」は、気の感応(同調)とか気の流れによる呼吸力の発揮と相手が打とうとする気を感じる察気に特徴があると思います。これらと深い関係があるのが、これらの鍛錬法です。

察気については、ゾーン体験とそっくりで、スポーツ心理学の「ゾーンに入る」状態を合気道の「天の浮橋に立つ」という状態と捉えると、開祖の鍛錬法に対する理解度も深まると思います。
トップアスリートでは、バスケットボールのマイケル・ジョーダンが、半年間のシーズン中に十回程度ゾーンに入る経験をしていて、Michael Jordan gets in the zone.(マイケル・ジョーダンがゾーン状態に入る)という言葉がある程です。彼は、「試合中に周りの音が聞こえなくなり、自分の実力がフルに発揮できる精神状態、具体的にいうと、自分の周囲の動きが全部スローモーションのように見える。つまり、相手のディフェンスがゆっくりと動いているように見えるので、当然、そのディフェンスを軽く抜くことができる」(『マイケル・ジョーダン、ゾーンに入る』http://www.aozorany.com/story/thecage/20070925.phpより引用)と、その体験を語っています。
開祖の場合、ピストルの弾を避けたという話があり、それを気で説明されていますが、このゾーンに入るという面からアプローチすると、その状態に到達するための鍛錬法が理解しやすくなると思います。

まず気の鍛錬法(修法)に分類されるものから入りましょう。
脳波をα2波(ミッドアルファ波)の状態に導く鍛錬法と云えば、直ぐ座禅を思い浮かべますが、開祖は、座禅は奨められていません。「座禅を行ってみましょう。鎮魂帰神の方法は正坐と中坐(両膝をついて爪先を立てた状態)にありますが・・・」(『合気神髄』p.126)と言われていますが、鎮魂帰神のことを座禅と分かり易い言葉でおっしゃられているだけのようです。
開祖が、初めて「鎮魂帰神」に出遭われたのは、「さて、本部で、危篤の父の平癒をお祈りしていただきたいむねを告げると、金竜殿に通されて、しばらく鎮魂祈念するようにと助言された。端座瞑目し、かつて習いおぼえた密教加持の印行をおこなって・・・」(『合気道開祖 植芝盛平伝』p.110)と述べられている、大正8年(1919)12月、大本教の聖地、綾部に出口王仁三郎聖師を訪ねた時のことです。鎮魂印は密教の九字の印(獨古印、臨)に似ています。

開祖が入られた頃の大本では、神懸りとしての鎮魂帰神を行っていましたが、大正10年(1921)の第一次大本事件の後に止めています。しかし、大正13年(1914)の入蒙の折に開祖が鎮魂印を結んでいる写真が残っているので、鎮魂(心身統一)のためにその後も行として続けられていたのではないでしょうか。神懸かり状態になる霊媒としてというよりも霊力を出すためだったと思います。
開祖は、「私は神懸りとは違う。神そのものなのです」(『武産合氣』p.189)とおっしゃられていたので、神懸かり状態(トランス状態)も体験されていたと思います。その上で「神懸り(トランス状態、帰神)とは違う」と言われているようです。年譜には次のように書かれています。
「大正9年(1920) 王仁三郎師の絶大なる信頼を受けて片腕となり、鎮魂帰神その他の幽斎修行、および顕斎修行につとめた」(『合気道開祖 植芝盛平伝』年譜p.307)
なお、片腕というのは、近侍として王仁三郎聖師の傍に仕えたということで、最高幹部や、当時、一流の来客との座談のおり同席させられ、それがこの後、各界の著名人との繋がりに発展します。このことは、30歳代の開祖の人間性に影響を与え、向上させるためにも役立ったと思います。

このように、開祖は、神懸り(トランス状態)とこのゾーンに入った状態とは区別されていたようです。開祖が続けられた方法は、鎮魂印を組み、念(イメージ、意念)を廻らせる方法のようです。
「それには、まず鎮魂帰神の神習いにて神術によって心を練るべし」(『合気神髄』p.168)
「(鎮魂帰神の)方法は合気の修錬の折に指導者によって学んで下さい。・・・正坐をやってみましょう。心で鼻の奥を眺め、へその緒まで通す。ひびきで開く。宇宙の営みの世界を感じ見る。・・・修法は、(鎮魂印に)指を結び目をつぶって下さい」(『合気神髄』p.127)
ここで「目をつぶり」と教えられていますが、確かに目を閉じると数分でα波になりますが目を開けたとたんに消えてしまうので、私の考えですが、武道やスポーツに生かそうとすると瞑目法は向いていないと思います。座禅で行われている半眼よりも剣道の遠山の目付けのように宇宙を感じ見るような目付きが良いのではないでしょうか。
なお、脳の働きであっても、「へその緒まで通す」と教えられているように、心は頭ではなく肝(はら)にあるとイメージするのが、肝が据わって、α波が発現し易くなります。
「その結びは中心がなければなりません。中心があるから動きが行われるのです。この中心は腹です」(『合気神髄』p.68)

トランス状態でもα波からθ波が現れるそうです。また、催眠術をかける時にはθ波の状態にしておいてかけるそうです。それで、あまり結果を求めて気功などを行うと、トランス状態(脱魂状態)の方に行ってしまってコントロールが効かなくなることがあるかもしれません。そのため、専門家の下で修錬をされるのが良いと思います。
私たちが勝手にやって、低級霊に憑かれて気でもふれたら大変です。この修法は、人を簡単に投げ飛ばしたいなどという自分の利益を考えず、常に、禅でいう衆生済度の大発願、合気道の万有愛護の大精神に基づいて修するという気持ちが求められると思います。

脳波で解いているこの領域は潜在意識や超意識という捉え方もされていて、人間は潜在意識や超意識の世界で繋がっているということが云われています(開祖も「八識」に触れられています)。開祖の次の言葉は、開祖がそのような状態にいたということを示したものだと思います。
「魄(物質的)の上からもテレビのようなものができ、遠隔の地の出来事も見えるようになった。それが一歩前進して精神の花が咲き、実が結ばれた折りは、人は互いに個々の想いが絵のように自己に映って、すべてが分かるようになる」(『合気神髄』p.15)
これは、まさに「察気」です。

気の鍛錬法として、開祖が「ひびき」と言われているように、声を出すのも良いようです。白井亨の場合は徳本行者に参じて念仏を唱え、心境が進みましたが、開祖の場合は祝詞や「アオウエイの五音」ではなかったかと思います。
「祈りは、本当に祈りが素に成り大橋となる。大橋というのは、天の浮橋の事である。天の浮橋とは、火と水の十字の姿である。世界十字に引き均(なら)して、世を治めるという御神示がここに有る」(『武産合氣』p.48)
「天台(天の浮橋)に立って、東天に向かって礼拝する。地球の中心に立って、天地万有万真と共に、打揃って、そして感謝を捧げる祈りである。これが真の合気道であり、武産である。これがごく調和のとれた水火の息と息との交流の根元をなしているのである」(『武産合気』pp. 50-51)
「朝、東天を拝し、宇宙の妙精を呼吸によって吸収し、祈り言を唱えれば、身心は爽快になって邪気は晴れる。・・・この祈り、みそぎによって、鎮魂帰神も成り立つのである」(『武産合気』p.64)
「『アオウエイ』を口より鳴り出させる形式と造化の御力徳、右に螺旋して舞い昇りたまい(註 樹木の捻れと同じで、地上から天に向かって時計回りに気が昇る)、左に螺旋して舞い降りたまう御行為により、水火の精台(天の浮橋)の生ずる摩擦連行の、様相根元をなし、無量無辺の音声、万有一切は成立するということであります」(『合気神髄』p.77)

その他にも気功(○○呼吸法、○○静座法)、ヨーガなども同じ鍛錬法です。これらでは胎息が理想だと言われていますが、武道ではもっと空手の息吹の呼吸法のようにひびきがあった方が良いと思います。目を開き、息(と一緒に気)を吐き、吸うこと、イメージで気をめぐらせること、ひびき(呼吸する時や声を出して)があること、そして、リズミカルな動きが伴うものが良いと思います。

有田教授は、「リズム運動をするときに、自分が動かしている体のみを意識することで、脳内では大脳が変わっていきます。体のみを意識しながらリズミカルに腹筋を使う呼吸法を5分もすると、脳波に影響が現れるのです。・・・5分程度呼吸法を継続していくと、ほとんどの被験者の脳波にα波(8〜13ヘルツ)が出てきます。・・・そして、この脳波をコンピュータで1分ごとに解析してみると、開始約5分後からα波の山がはっきりしてきて、次第に山が高くなり、10〜15分でピークに達します。そして20分を経過するころから、α波の山は上がったり下がったりと不安定になります。・・・もちろん個人差があり、呼吸法を普段から実行している被験者は30分程度までは不安定になりません」(『「セロトニン脳」健康法』)と説明しています。この脳波を1分ごとに周波数解析して、左上から順次重ねて表示したものが次図(呼吸法時の脳波解析)です。このことから、呼吸法の修法は2、30分位続けると良いことが分かります。

呼吸法時の脳波解析.jpg


開祖は、鎮魂帰神法の他に、天の鳥船の行(船漕ぎ運動)、振魂も奨められています。これなどは、ひびき(声)もリズミカルな動きも伴うものです。
「天の鳥船(あめのとりふね)の行の神事あり。之は神々が、天の鳥船に乗り給いて大海原を横ぎり給いし大雄円をしのびつつ渾身、特に臍の辺りに力をこめ気合と共に櫓を漕ぐままの動作を百千回反復する行にして、運動それ自身にあたいするのみならず、之に依りて合気の稽古も出来不智不識の間に衆心の一和する禊なり」(『武道禊の巻』)
『古神道入門』を著されている小林美元師は、「宇宙の波動に共振する、振魂と天(あめ)の鳥船の神伝の禊の行法が、霊感を高めます。一度や二度でなく継続が、力になるんですよ」と教えています。

これら以外に、開祖は、滝行、日想観なども修行されています。

一般的な稽古法とはかけ離れた鍛錬法(修法)で、果たして合気道を極めるために必要かどうか疑問に思う人もいるかと思いますが、わが八千代合気会の会員は、「富士山に登ろうと心に決めた人だけが富士山に登ったんです。散歩のついでに登った人はひとりもいませんよ」(コミック『浮浪雲』)という言葉を噛みしめて、頂上を目指して欲しいと願っています。
弓聖と称えられた阿波研造師範になると、次のように開祖よりもっと難解ですが、ドイツ人のオイゲン・ヘルゲルに理解できるようになった訳ですから。
「弓から矢が離れる瞬間の、その人間の無心な態度が無くてはならない」
「的を当てようと思うな」
「力を抜こうと意識するな。意識した瞬間にとらわれる」
「自分を離れて弓を射よ」(ならば師よ。私が射ないのならば、誰が射るのですか?)「“それ”が射るのです」
「あなたの矢が的まで届かないのは、あなたの精神が的まで届いていないからです。弓道の奥義は、的のことを関知しません」
posted by 八千代合気会 at 07:13| 日記