2013年06月01日

ゾーンに入る技術

スポーツドクターの辻秀一医師が著者で、平成23年(2011)4月にフォレスト出版から発行されました。副題は『「驚異の集中力」が最高の能力を引き出す!』です。

「ゾーン」とは、究極の集中状態になり、スポーツや仕事などで最高のパフォーマンスを発揮できる状況で、さらには、能力以上の力を出せる状況のことです。人間の気が散るという習性を改善し、常に集中状態を作り出すために、脳の認知機能(敵から身を守るために外の環境に敏感になる能力で、周囲のことが気になってしまう習性)とライフスキル機能のバランスを整える方法が書かれています。ライフスキルとは、心を「揺らがず」「とらわれず」のフロー状態に導く機能のことで、このフロー状態は、別の表現をすれば、本気状態とか無我夢中の状態ということで、理由や条件などに頼ることのない恒常的な安定したエネルギーの自家発電状態(心理学では内発的動機の状態)です。フロー状態が進めば、ゾーンに入り、野球でいえば、投手の球が止まって見えるとか、小さい野球ボールがバレーボールほどの大きさに見えるなどの現象が起こります。

集中状態になるためには「何をするのか」が明確で、かつ、それが人からやらされている状態ではなく、自発的な楽しさに満ちあふれた挑戦に満ちた精神状態で行うことが必要とされていて、成る程と納得できます。試合中にミスした選手にコーチが「絶対にミスするなよ!」と注意を与えると、それが「とらわれ」として残り、次のプレイでもミスをしてしまうというのは、ノンフロー状態になってしまうからだそうです。褒めて育てるということは、この意味でも大切だと思いました。

将棋の羽生名人や野球のイチロー選手が、集中状態を常に作り出している「集中脳」の持ち主として紹介されていて、名人やトップアスリートのような「集中脳」を磨くための3原則が示されています。その第1は、ライフスキル脳の仕組みやライフスキルとはどんなものか、フローとはどんな状態なのかとか、なぜ人はノンフローになるのか、などの知識を持つこと、次に、その知識として得た脳の使い方を実践して、フロー状態になり、集中を体感すること、最後に、その体感、すなわちフローの感覚を言葉にして、人と分かち合うことだそうです。この3番目の原則は、体感したことを自分の言葉で表現できることだと思いますが、私たちもフロー状態を「呼吸力」に置き換えてみると、それ(又はその概念)を言葉で伝えられるようにならない限り、その本質に至っていないことが分かると思います。

第1章は、イチロー選手や羽生名人などの集中脳の仕組みについて、第2章は、強い集中状態の作り方について、第3章は、認知脳とライフスキル脳の磨き方について、第4章は、集中の習慣について、そして第5章には、集中脳を「仕事」「勉強」「スポーツ」「ダイエット」などで使いこなす方法が書かれています。

認知脳が働いている中で、ライフスキル脳が磨かれ自由自在に使える人、すなわちいつでもどこでも集中できる人をバイブレイン(Bibrain、2つの脳)な人と定義していて、「何をするのか」が明確で、それを限りなくフロー状態で行うことができる人で、そうすると集中状態になるそうです。そのために、自分の感情(気分、気持ち)に気づき、楽しい、安心、ゆったり、ワクワクなどのフロー状態をもたらす感情と、イライラ、残念、がっかり、やばいなどのノンフロー状態をもたらすものとを区別して、自己評価することがライフスキルを磨くことになるのだそうです。言いわけ(正当化)すると、自分の心の状態を自分ではなく、環境や経験や他人に任せることになるので、「自分の心は自分で決める、自分の機嫌は自分で取る」と決めることが重要で、これがライフスキル脳の原点になるとのことです。

心の状態をフローにする4大ツールは、「言葉」「態度」「思考」「表情」で、この4つを自分の心のために使うこと、すなわち、人間固有のこの4大ツールを使うライフスキル脳で心の状態をマネジメントするとフロー化が起きるということになります。
まず、自分の口から出る言葉を選ぶというライフスキルを学ぶことで、自分の心をフロー化させる言葉を発するだけではなく、頭の中で唱える言葉も選択する必要があります。言葉の選択では、野球のイチロー選手が挙げられています。
「イチロー選手がインタビューにゆっくり答えているのは、みんなにどう思われるかではなく、自分の耳にどんな言葉を入れて心の状態をフローに保つのかということに集中している証だと思う」
「態度」は穏やかな態度、堂々とした態度、元気な態度で、外部に起こった状況や出来事とは関係なく、そのような態度を自分の心のために作ることが必要です。その良い例が、国民栄誉賞を受けた野球の松井秀喜選手です。
「松井選手も毎日毎日、自分の成績をマスコミのインタビューで世界中の人に知らせなくてはいけない状況でストレスがないわけはない。それでも穏やかな態度でいるのは、ライフスキル脳のなせる技だ」
良い態度はリラックスしていることでもありますが、リラックスするために身体を使いながら行う腹式呼吸が推奨されています。
「実は、呼吸とフロー度合いの関連が高いということもわかっている。人は、ノンフローの時、呼吸が浅く、早くなる。そして、脳はそのように記憶しているから、浅く、早くなれば、今はノンフローなのだと思い込んでしまう。逆に呼吸をゆっくり大きくしてみるだけで、心はフロー状態の方へ傾く。呼吸を自分で意識し、フロー化の態度の1つとして大いに利用してほしい」
「私たちはリラックスすると、『とらわれ』が軽減される。これもフロー状態の1つだ。・・・リラックスすると俗に言う右脳の機能が良くなり、認知による『とらわれ』がなくなって、創造性が高まると考えられる」
「表情」は、「笑顔」が外部の状況によって出て来たものでなく、外部の状況に支配されることなく、自分の心をフローに傾けるために笑顔でいるということなら素晴らしいことで、良い表情が、顔面の多くの筋肉が「その表情でいることがフローな状態であったことだ」と脳に思い起こさせ、心のフロー化を引き起こすようになるのだそうです。良い表情の持ち主として、ボギーでもバーディでも明るい笑顔を絶やさない、ゴルフの宮里藍選手が挙げられています。
最後に「思考」ですが、外部の状況にどんな意味付けをするかということではなく、こういう脳の使い方をすると理由や理屈に関係なく、人間の心はフロー状態に傾くのだという脳の使い方、すなわち思考の選択をいいます。例えば、好きなことを考えると人は外部の状況に関係なく必ず気分が良くなるので、好きという感情を大事にすることが勧められています。職場などで、同じ人でも、悪いところを見ると、どんな人でも嫌いの感情がわき起こるが、悪いところがあっても、良いところを見ると、好きの感情が起こりやすくなることは経験していることだと思います。外部の状況に左右されないフロー状態を作り出すために、思考のコントロールが欠かせないようです。「好きこそものの上手なれ」は、このようなことを説明する言葉かもしれません。

集中の習慣を身に付けるため、次のことが書かれています。
「自分で作れる『楽しい』をリストアップする。これをどれくらいしっかり持っているのかということこそが、いつでもどこでもフローを作り出すには大事になる」
「一生懸命を選択して、それがフローになるという体験のある人は自ら集中状態になれる」
「自分を信じる。信じないより信じる方が、心は必ずフロー状態に傾く」
「まずは『信じる』と自分で決めればいいのだ。そして、信じるという思考を外側の理由から離して、自分のために脳が実践し、そこで感じた体感をシェアしていくことでこのライフスキル脳は磨かれていく」
「今に生きることができれば、フロー化を起こし、必ず人生は好転する」
「夢が今の集中状態と関連していることを知り、実践している人は少ないが、そうすれば幸せだし、結局は結果も出るし、夢の叶う確率も高いのだ」
「結果のためにチャレンジするのではなく、ライフスキルのためのチャレンジは、あくまで少しずつ『とらわれ』にくい自分を形成して、フローに生きるための習慣なのだ」
「変えられないものは心まで持ち込まない」
「準備がフローを生むことを知っていると考えて心の状態にフローを生み出す」(preparing思考)
「自分の周りで起こる出来事を・・・そのまま受け止める」
「与えることで、自分自身にもフロー状態がやってくる」(forwardの法則)
「どんなに技術的に劣る相手とでも、リスペクトの心でプレイしなければ、そこに自分自身のエネルギーは生まれないのだ」(respect思考)
「感謝の心は、まず人にエネルギーを与え。人をフロー状態にする」

ゾーン体験、フロー体験を自分の言葉で表現する、という原則がありましたが、それが語られているブログがありました。
http://blog.livedoor.jp/y_star0515/archives/52926127.html
直ぐにフロー状態を体験できないからといってあきらめないで、そのような体験をしている人は意外に多いのだと思って、必ずできると思うことも大切だと思います。
この本は、その手掛かりを与えてくれると思います。
posted by 八千代合気会 at 12:31| お勧めの本