2014年10月22日

最強の武道とは何か

デンマーク出身の空手家、キックボクサーのニコラス・ペタスが著者で、平成25年(2013)8月に講談社から講談社+α新書として出版されました。

この本は2008年からNHK WORLDで放送され、2012年1月にNHK BS1で再放送があった「SUMURAI SPIRIT」の取材を元に書かれています。
著者は、13歳で空手を習い始め、極真会館で内弟子修行をし、K-1に参戦し、K-1で戦うためにボクシング、キックボクシング、ムエタイも学んでいます。そのため「SUMURAI SPIRIT」の取材以外に、第一章で極真、第二章でK-1について触れ、空手、柔道、相撲、合気道、剣道、弓道の取材記事が続いています。終章は「真に強い人の条件」について書かれています。

私は、劇場映画で1975年11月1日に開催された「第一回・全世界空手道選手権大会」の模様を収めている「地上最強のカラテ」を見て、極真空手が地上最強というイメージを持っていましたが、著者のK-1初戦は第2ラウンドTKO負け。
「敗因ははっきりしていた。僕が甘かったのだ。当時の極真には、自分たちの強さに対する過信があったと思う。『極真空手は実戦空手。だから、どんなルールでも負けることはない。自分たちが磨いてきた技が当たれば、相手は絶対に倒れる』 僕も含めて、そんな思い込みがあったのだ。でも実際には、極真空手とK-1はまったく違うもの。もし極真の空手家とK-1ファイターが路上でケンカになったら、どっちが勝つかは分からない。ケンカは『よーいドン』の世界ではなく、先に仕掛けたほうが勝つ。『ケンカ? 俺は相手が気づかないうちに後ろからビール瓶で殴るね』という格闘家もいるほどだ」

合気道は絶対不敗だから自分は誰よりも強いのだ、と思っている合気道修行者がいたら、そのような考えが果たして実際に通用するのかどうか著者の体験を読むと良いと思います。ここに書かれている他の武道の考え方や技術などを知っておくと、他者の良い所を認められ、絶対争わない故の絶対不敗の道を歩めるのではないでしょうか。

合気道については、「合気道の先生たちはみんな落ち着いた人だった。まさに達人という感じだ。そういう人と一緒にいると、自然に『この人に教わりたい、この人から学びたい』という気持ちになってくる」と評価をされていますが、「合気道には、技術的な疑問もある。たとえば寝技がないのはどうしてなのか。ローキックを蹴られた場合の対処法はあるのか」という指摘もされています。

空手では、「試合はある意味で非日常です。でも、一番いいのは日常のなかで空手が活かされること」、「どれだけ威力があるか分かれば、相手を攻撃することもなくなる」、「本来、空手で向き合うのは相手ではなく自分です。身に付けた強さは、一生発揮しないかもしれない。どこまで我慢できるかが大事なんです」などという考えに著者は、「この意見には、非常に納得できるものがあった。感銘を受けた。僕も極真時代から、同じことを考えていたのだ」と述べていて、この著者自身が「SUMURAI SPIRIT」を持った人だと気づかされます。

柔道では、全日本柔道連盟強化委員長が「日本柔道が目指しているのは、昔から一本を取る柔道。一本を取る意味は、相手の息の根を止めるということです。相手を殺すくらいの勢いで投げる。それが本当の一本。綺麗に入って綺麗に投げるのが日本柔道。そのこだわりは必要です」と説明されていますが、この部分をテレビで見た時、「一本を取る意味は、相手の息の根を止めるということです。相手を殺すくらいの勢いで投げる。それが本当の一本」という考え方には違和感を覚えました。この考えは創始者の嘉納治五郎先生の考えと相容れるものでしょうか。
武器を持つ剣道や空手などの全身を武器として鍛える武道は危険性を弁えざるを得ないと思いますが、柔道や合気道のような体術では、投げても頭を打たさなければ良いとか、関節が曲がる方向に曲げているので骨折はしないと思って、技の切れや有効性を追求していると大きな事故に繋がります。思いやりや手加減が、著者が言っている優しさに通じると思います。

相撲では、「横綱にとって大事なのは、どれだけ自分に厳しくできるか。『心技体』という言葉で、まず最初に来るのは心。ただ強いだけではだめで、礼儀作法も含めて武士道のようなものを知っている人間でなければいけない。相撲を取っているなかで、相手に感動を与えることができる。それが横綱なんです」ということですが、20歳代で「横綱」と呼ばれる人の心作りも素晴らしいものだと思います。親方の教育と本人の心掛けが作り上げたものでしょうか。

剣道では、「剣道の勝負は手段であって、決して勝つことだけが目的ではありません。そういう意味では、剣道の技は、対戦相手と自分が協力して作り上げていくものだと思います」ということで、「剣道は打たずに打たれなさい 受けずに打たれなさい 避けずに打たれなさい 力を抜いて柔らかく 相手と仲よく穏やかに 姿勢は美しく 匂うがごとき残心を」と教えられているそうです。
剣道の「気剣体」の一致は、「気…十分な気勢をもって 剣…竹刀を正しい向きで目的の部位に命中させ 体…正しい姿勢を最後まで保つ」ということが三つ揃ってはじめて一本と判断されるそうです。合気道の「心気体」の参考になります。

弓道では、「弓道を始めたばかりのときには、みんな当てることが面白いんです。だから弓道を始める。特に学生は的中を争います。ただ、その上の段階に行くと、精神的なところに(意識が)向かう。当てる弓を引くのではなく、当たる弓を引く。それは心の問題になってきます」という説明があり、「的に向けて射るのではなく『的を引き寄せる』のだ」ということです。
これは、合気道の引力の練磨に通じると思います。

「おわりに」に、「優れた武道家は、みな優しい。痛みを知り、自分自身を深く理解しているからだ。空手道、柔道、剣道といったジャンルの違いは手段の違いというだけで、目指す場所は同じ。人に優しくなること、尊敬される人間になることだ」と感想が述べられ、「武道を学ぶ人が多くなればなるほど、世界は平和に近づく。僕はそう信じている。武道は世界平和への道。そのための気づきを与えてくれた武道家のみなさんに、あらためて感謝したい」と結ばれています。
posted by 八千代合気会 at 17:27| お勧めの本